育児休業とは、原則として1歳未満(*1)の子を養育する労働者の申し出により取得することができる、育児・介護休業法に規定されている休業です。育児休業が法制化された1992年から利用できるのは男女労働者ですが、利用者は圧倒的に母親でした。育児休業から復帰した後も母親が短時間勤務をして保育園や幼稚園のお迎えに行き、帰宅後の家事と育児を一人で行い、父親はこれまで通り残業も出張も行うという家庭内分業制が明確であればあるほど、たとえ母親は会社を辞めなかったとしても、仕事ではブレーキを踏み続けざるを得ません。出産前は責任ある仕事をしていたのに、出産・育児によってキャリアの機を逃してしまう状況では、どんなに優秀な女性でも男性と差が生じてしまいます。男女の平均勤続年数、賃金、管理職数の格差の背景にはこうした要因があります。
育児・介護休業法は、男性の利用を促すためにこれまで何回も改正を重ねてきました。2022年の法改正では、従業員やその配偶者が出産・育児の予定を会社が知った場合には個別に育児休業制度を説明し、さらに取得意向の確認を事業主の義務としたことや、男性も取りやすいように制度を柔軟にしたこともあり、2023年度の男性育休取得率は前年度の17.13%から30.1%へと一気に上がりました。(図1)また、取得日数も2021年度は2週間未満が51.5%、2週間以上3か月未満が37.7%に対し、2023年度は同37.7%、48.4%とこの数年で長期化していることがわかります。
このように男性の育児休業取得者は確実に増えていますが、取得時期は母体のダメージが大きい産後8週間を希望する人が多いようです。実際の利用もこの時期が多かったこともあり、法改正では「産後パパ育休」(*2)が創設されました。
かなり前のことになりますが、私も子どもの産後しばらくは心身共にかなり辛かった経験があります。生活リズムができていない新生児は24時間いつでも授乳と抱っこを求め、やっと寝たと思ってベッドに寝かせてもその途端に大きな声で泣き続ける毎日のなか、産後の体調が戻らないこともあり精神的に不安定になったこともありました。この時期に父親が育児・家事に関わる重要性は本当に大きいものです。
産後パパ育休は、夫婦で協力して育児をしたり、お互いのキャリアについて話し合ったりする貴重な機会になるのではと思います。
(図1)
令和5年度「雇用均等基本調査」(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r05.html
いっぽうで男性の育児休業は、休業中の業務体制が課題となっています。短期の休業であれば、同じ部署のメンバーで補い合うことでなんとかやりくりできるかもしれません。しかし長期の休業の場合や、業務の専門性・複雑性が高かったり、業務の幅が広かったりなどの理由で代替するのが難しい場合などは、特に中小企業などの小さな組織では負担感が大きいでしょう。これまでは、男性が育児休業を取ることを想定していない人材育成、配置、業務アサインなどを行っていた会社が多かったため、女性よりも男性の育児休業のほうが取得のハードルが高いのではないかと考えています。
次回のコラムでは、高いハードルを越えてでも男性の育児休業を推進していく必要性等についてお伝えいたします。
*1 父親も母親も育児休業を取得している場合は1歳2か月までとなります。1歳の誕生日前日(1歳6か月前日)時点で育児休業を取っているのに保育園に入園できない等の事由がある場合は、1歳6か月(2歳)まで延長することができます。
*2 産後8週間以内に4週まで取得(2分割可)できる育児休業。申出期限は開始日の2週間前まで。労使協定を締結して一定の要件を満たせば休業中に就業することが可能です。