LESSON1. 好きなことを仕事にする苦労とやりがい
~夢をかなえるために~
Q.なぜ「職人」を目指したのですか?また、豊橋筆を選んだ理由を教えてください。
A.小さい頃からものづくりが好きで、父と犬小屋を作ったり、図工の授業がいつも楽しみでした。手芸などで色々と考え、試行錯誤して実用的なものを作るのが好きで、その頃から職人に憧れていました。職人のひたむきに机に向き合っている背中が非常にかっこよく、あの机から広がる世界!と、ロマンを感じていました。
職人の勉強をするために伝統工芸大学校に入学して色々学ぶ中で、伝統工芸は装飾品が多いと感じました。それはそれで素敵なのですが、私は幅広い人に寄り添える道具を作る職人になりたいと思うようになりました。
また、入学した頃は、伝統工芸とは特別なものだと思っていましたが、卒業する頃には特別というよりも「身近にある素朴なものの良さを、知識や技術を持った人が、最大限に生かし、工芸として便利なものに作り上げること」なんだと知りました。
全国のいろいろな工芸品を見て回っていると、工芸はその産地、歴史に根付いていることもあり、地元の人に継いでほしいという声をよく聞きました。私も地元が好きだったので豊橋の工芸である豊橋筆の工房見学をさせて頂き、その技術に驚きました。加えて、書道は小学生から大人の書家さんまで幅広い人に親しまれていることも理想的だったので、豊橋筆の職人になりたいと思いました。
Q.幅広い人に寄り添う道具を作る職人になりたいという思いから、地元豊橋で筆職人を目指し始めたとのことですが、筆職人になるために、苦労した経験を教えてください。
A.最初に一番苦労したことは、あぐらで座り続けることです。あぐらは正しく座れば骨盤を立てやすく、体の重心も安定して筆を作りやすいのですが、慣れるまでは辛かったです。
接骨院にも通ったりしました。ほかの職種の職人も最初の壁は、あぐらで座り続けることだと聞きます。
今でも苦労しているのは、筆づくりで一番大切な「形づくり」です。書筆にはこの数値が出ればいい、といった基準がありません。材料になる動物の毛は、人の髪と一緒で個性があり、いつも同じ材料が手に入るとは限らず、指先の感触や目で見て、良し悪しを判断しなくてはいけません。単純に筆を作るだけなら3年もあれば作れますが、良し悪しの判断ができるようになるにはコツをつかみ出すのに5年ほど。周りから信用される筆が作れるまでには10年20年あっても難しいこともあります。
地道に誠実に筆、お店、使い手に寄り添って丁寧に作り続けるしかありません。
豊橋筆の特殊な技法、練り混ぜの工程。
~憧れの仕事のやりがい~
Q.素材の個性を見極める感覚を掴み、周囲の信頼を得るには地道な努力が必要なのですね。ところで、筆職人とはどのようなお仕事ですか?
A.私は、主に書道の太筆を製作しています。筆の毛の部分(穂)を作り、1か月に500から700本ほどの筆を作っていて、収入の9割を占めるのが問屋さんへの納入です。独立した今は、かつて祖父母が住んでいた実家の離れを工房にして、基本的に1人で製作しています。チェックをしてもらうために週に2回ほど師匠の工房を訪ねます。
年に数回、百貨店や展示会などでも販売させて頂いています。
また、筆づくりを身近に感じてもらうため、SNSで情報を発信したり、ワークショップ、地元の小学校に出前授業をしたりしています。
気になる筆職人の1日のスケジュールを伺いました。(下図)
Q.どのようなときにやりがいを感じますか?
A.自分の作った筆が「書きやすかった」と言って頂けたときです。
また、書くのが楽しかったなど、使って頂けた方の言葉は心にしみます。
先日、とある毎日書を書く方から、「中西さんの筆をこんな風に使ったら、さらに良い字が書けたよ」というお言葉をいただきました。
自分の筆が墨のつけ方や、紙の質等、ちょっとしたことで印象が変わり、気に入ってもらえたことが嬉しかったです。
また、筆の面白さや可能性を感じ、もっと良い筆を作りたい!という気持ちになりました。
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LESSON2. 女性が少ない職場はチャンスがいっぱい!