前回のコラムでご紹介したように、今の新入社員は育児休業を取得したいという希望が男女でほとんど差がありません。人口減少による労働力不足の中で若い人の採用は企業にとって死活問題であるため、危機感を持っている会社は、男性が育児休業を取りやすい環境づくりに取り組んでいると感じています。
私は社労士の立場からダイバーシティを推進し、大企業人事の勉強会の運営や社内研修、中小企業のコンサルや事業主向けセミナーなどを行っています。
大企業では男性の育児休業は数か月取っている人がいても珍しくはありませんが、実は小さな営業所や業務の代替性などによって取得が困難な配属先の人もいます。
また、中小企業での男性の育児休業は人手不足のため難しいとよくいわれますが、同じような規模の中小企業でも男性の育児休業が当たり前に取れる会社と、全く取れない会社があることをたくさん見てきました。その中で私がこれまで接点を持った中小企業での事例を3つご紹介します。
先日、私がコンサルティングを実施した従業員数60名程の建設会社は、女性従業員16名中8名が産休・育休を経て働き続けていて、そのうちの1名は管理職です。若手の男性従業員も多く、男性の育児休業取得者は2名の実績があり、そのうちの1名は3か月近く取得していました。建設業は天候に左右され、かつ年度末の工事完成を求められることが多く、長時間労働になりがちで男性の育児休業など考えられないという事業主や現場の声を聞いてきた私としてはとても驚きました。確かにこの会社は一部の人の残業時間が課題となってはいるものの、会社として育児・介護に対する理解が高く、制度上も有給の「子の看護休暇」や「育児目的休暇」を備えていて、これらの制度を男性も利用しているのです。男性の利用実績があれば、その後同じような境遇になった男性も利用しやすいはずですし、会社全体として男性の育児休業を自然なこととして受け入れているのが印象的でした。
私の顧問先の保育園では、男性保育士が出生時2週間、その後1年近く育児休業を取りました。長期間になったのは、担任制を考慮すると年度単位での休業のほうが合理的であったからです。当初、同僚である女性保育士や利用者である園児の父母の一部には、男性が育児休業を取ることに内心抵抗があったようですが、理事長が職員や父母に男性の育児休業を応援するという方針を伝えたうえで人員体制を整えるなどして、男性保育士の背中を押していました。
先日、私が取材した創業20年の従業員数100名超のITコンサルティング会社では、創業時から場所や時間に縛られない自由な働き方を実践していました。出社日数は本人が決められるので週3日程度出社する人が多いとのことでしたが、地方在住のフルリモート社員も複数います。またコアタイムのないフレックスタイム制を導入しているため、私生活の状況に合わせて柔軟に働くことができる環境を魅力と感じる若い働き手が沢山いるとのことでした。全員が顔を合わせる時間が少ないだけに、コミュニケーションには工夫が必要ですが、男性の育児休業だけに目を向けるのではなく、従業員全員が働きやすい職場を目指すことで、自然と男性の育児休業取得や育児・家庭参画につながっているようです。
このように、男性が育児休業を取得している職場には、経営層の理解があり、管理職や同僚が自然なこととして受け止めているという共通項がありました。そのうえで制度を整えたり、業務体制に工夫を加えたりすることで男性の育児休業はもっと浸透していくのではないでしょうか。