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「ジェンダー平等を実現しよう」への取組み事例2

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中小企業のSDGs取組み事例 「ジェンダーの平等」

CASE2 男性社員の育休100%取得を目指す ~「株式会社ベアレン醸造所(岩手県盛岡市)」~


 

株式会社ベアレン醸造所(岩手県盛岡市)
業種・事業内容:地ビールの製造、販売 従業員数:40名
取組みの背景とプロセス
地元密着型で手造りの本格ビールを製造、販売している同社。誰もが働きやすい会社を目指して2017年から本格的に働き方改革に取り組みはじめ、翌年には残業時間を大幅に減少させるなど成果を上げています。
若いスタッフが多く、結婚したばかりのスタッフも多かったため、同社のトップは仕事と家庭の両立支援が必要だと考え、2019年に「男性育休100%宣言」を発表。同社では当時、女性社員はすでに育休100%取得、100%復職を実現していましたが、SDGsの目標の一つであるジェンダー平等を目指す会社の姿勢を表すものとして、男性社員の育休取得100%を掲げました。こうした取組みが評価され、同年4月、岩手県より「いわて子育てにやさしい企業認証」を取得し、11月には「いわて働き方改革AWARD 2019」で最優秀賞を受賞しました。
しかし宣言を出した当初、社員たちは決して歓迎ムードではありませんでした。直営レストランでは「店長に休まれると困る」などの意見が寄せられ、家族から「家にいるより出勤してほしい」といわれた社員もいたといいます。




「いわて働き方改革AWARD 2019」授賞式。女性活躍推進、子育て支援などの取組みが評価され、最優秀賞を受賞。

具体的な活動と成果
肯定的とはいえない社内の雰囲気の中、「男性育休100%取得」への取組みはトップダウンでスタートしました。育休期間は出産後2ヵ月〜数ヵ月、希望によって半年程度取得することも可能です。同時に会社として「育休中の人員補充はしない」という方針を打ち出しました。育休中は周りの社員がフォローしようという考えからです。
2021年までに3名の男性社員が育休を取得。うち一人は雫石工場の工場長で、2021年6月まで半年間の育休を取得しました。秋には新たに男性社員が育休を取る予定です。
実際に男性社員が育休に入ると、育休中の社員がしていた業務をフォローするため、社内のコミュニケーションや協力体制が強まって人材育成にもつながり、副次的効果として業務の効率化も進みました。育休を取得した男性社員の妻は「育休が終わってからも積極的に家事をしてくれるようになった」と語り、育休取得により家庭人としても成長するなどよい変化が起きているそうです。また、男性の育休は出産に合わせてスタートするため、出産時期が前後して急遽対応に追われるなどの課題も見えてきました。社員のほとんどが20〜40代と若い同社では、今後、出産、育児にかかわる社員が増えることが予想され、今後も制度や仕組みを洗練させることを目指しています。




製造部の男性スタッフは第二子の誕生と共に育児休暇を取得。



 雫石工場長は社内報に育児日誌を連載。育休経験者の体験談やアドバイスを社員に共有することも、育休取得を定着させるうえで大切だという。



村尾氏からのアドバイス
日本では自然に任せていてもなかなかジェンダー平等は進まないという現実があります。ですから、ある程度は経営者が決断していく必要があり、中小企業は経営者と従業員との距離が近いからこそ、よくも悪くもトップダウンで推し進めることができるといえるでしょう。変革期にも恐れずチャレンジすることで、同業他社や地域社会にもいい影響を与えることができます。 同社はもともと従業員間のコミュニケーションが盛んで、互いのプライベートまでよく知っているような社風です。ビールの会社なので、コロナ以前には役員もスタッフも夜な夜なマーケティングと称して飲みに行く文化があり、だからこそトップが男性にも女性にも両立支援が必要だと思うに至ったのでしょう。「他社のお手本になろう」という意識もあったのではないでしょうか。取組みが成功した大きな理由としては、育休取得者の業務のフォローが的確に行われたことが挙げられます。同社は前年比売上125%と、男性社員の育休取得開始後にビジネス上の成果も出しています。海外への輸出も伸ばしており、特に欧米の取引相手となる企業からは、男性の育休取得を積極的に進めている姿勢が評価されています。海外進出をスムーズに進めていくうえでも、ジェンダー平等への取組みは大きな後押しになるでしょう。

COLUMN 村尾氏が語る

「改正育児・介護休業法」が成立
法律が社会や企業の「進化」を促す

街の中で若いお父さんが子どもと一緒に遊んでいる姿を見ることが多くなりました。お母さんに代わってお父さんが子どもと接する時間が増えて、それを男性も楽しんでいます。日本社会がずっと望んできた姿を手に入れつつあり、国として成熟してきたといえるのではないでしょうか。
法律は時に社会や国の望ましい変化を後押しする存在となります。新しい法律の施行時は中小企業は対応に追われて大変です。社内の制度やありかたを変えなくてはなりません。特に過去15年くらいはそういうことが多かったと思います。ただし、法律に対応することで会社も社会もよい方向に進化していっています。今回の改正育児・介護休業法の成立も男性と女性の役割が平等になっていく、男性も育児を楽しめるようになっていくうえで大きな力になると期待しています。

「育児・介護休業法」改正のポイント
1 男性の育児休業取得促進のため、出生直後の時期に柔軟に育児休業を取得できるように
2 雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置が事業主の義務に
3 育児休業を分割して取得できるように
4 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件が緩和される
5 育児休業の取得の状況の公表の義務付け

一般的な中小企業では女性の育休100%は実現できる?
資格を生かす仕事についている女性は復職する傾向が強いのですが、一般の事務職の人は出産を機に会社を辞めたり、主婦になるという人もいます。このように女性は出産、育児でライフスタイルが変わり、キャリアチェンジにつながっている面があるといえるでしょう。
コンサルタントとして中小企業全般を見ていても、出産を機に会社を辞める女性は一定数います。本人の意思や、会社への帰属意識にもよりますので、すべての会社が育休100%を目標とすべきとまではいえないでしょう。





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